※2009年作成の文章のため、記載内容が古く、現状にそぐわない内容も含まれております。
業務の合間に少しずつ更新していきますので、ご了承をお願い申し上げます。(2014.4.1)
他の交通事故の専門家に怒られそうなコメントですね。
しかし事実なので、率直にお伝えします。
確かに望み通りにいくこともあります。
私は以前、後遺障害1級のご依頼を受託し、340ページにも渡る損害賠償額請求書を作成して相手
任意保険会社に提出しました。
この案件は最終的に(財)交通事故紛争処理センターにて請求金額全額を相手任意保険会社に認めて頂き
ました。
しかしこのようなケースは極めて稀であると言わざるを得ません。
他のご依頼では、上記の案件同様極め細やかな内容の200ページにも渡る損害賠償額請求書を相手
任意保険会社に提出 したところ、全く応じてくれなかったケースだってあります。
こちらの案件も(財)交通事故紛争処理センターに申立を行いました。
依頼者と私の主張と相手保険会社の主張が対立し、最終的には相手任意保険会社寄りの結末になり
ました。
すなわち(財)交通事故紛争処理センターまで至り主張したにも関わらず、ご依頼人(被害者)にとって
納得できない結末になりました。
弁護士にお願いされても同じようにうまくいかないことはたくさんあります。
交通事故判例を読み込んでおりますと、「この判決は原告の被害者にとって到底納得できるものでは
ないだろう」と思う判例はたくさんあります。
すなわち裁判所にて訴訟開始から判決まで2年間や3年間の時間を費やし闘ったにも関わらず、
被害者においては到底納得できないだろうと思われる結末(判決)で終わる判例が数多く存在するという
ことです。
懇意にして頂いている優秀な弁護士でさえ、想定外の判決を受けることはあるとおっしゃっていま
した。
こちらについては、後遺障害異議申立について楽観的な謳い文句のホームページが散見しますが、
実際は専門家でも大変な作業です。
後遺障害等級を認定する機関である自賠責損害調査事務所は、下記3つを根拠に後遺障害等級
(1級~14級もしくは非該当)の認定を行っております。
(1)(a)事故時から症状固定まで医師の診断内容が記載されている診断書
(b)事故時から症状固定まで治療内容が記載されている診療報酬明細書
(c)症状固定時に医師の所見に基づく後遺障害診断書の記載
(d)症状固定時に被害者本人の自覚症状に基づく後遺障害診断書の記載
(2) XP(レントゲン)、CT(コンピュータ断層撮影法)、MRI(磁気共鳴画像法)
これらの画像から読み取れる所見
(3) 医師が行った検査結果(神経学的検査等)
検査不足、記載不足、自賠責損害調査事務所による見落とし等による後遺障害等級異議申立であれば、
後遺障害異議申立は認定されやすいでしょう。
しかし(1‐d)の被害者本人の自覚症状がどんなに辛くても、その辛い症状を医学的に裏付ける
(証明できる)医師の診断書や画像、神経学的検査がそろわなければ、どんな凄腕の専門家であって
もどうしようもないのです。
裁判では勝ちたいなら証拠を持ってこいと言われますが、後遺障害認定審査機関である自賠責損害
調査事務所も同様に後遺障害に認定されたいのなら医学的証拠を持ってこいというスタンスです。
すなわち症状を裏付けるXP、CT、MRI画像や神経学的検査所見が後遺障害認定要件になる
医学的証拠になります。
確かに検査を行い、症状と関連付けられる医学的証拠が揃えば異議申立は認定されやすいです。
しかし、自賠責損害調査事務所が要求する医学的証拠が揃えられない場合があります。
交通事故による頭部外傷の後遺障害認定を例にご説明致します。
自賠責損害調査事務所では、頭部外傷による高次脳機能障害の後遺障害認定要件の大前提として
下記2点があります。
①初診時に頭部外傷の診断があり、頭部外傷後の意識障害(半昏睡・昏睡)が少なくとも6時間以上、
もしくは、健忘症あるいは軽度意識障害が少なくとも1週間以上続いていた。
②頭部画像上(CT、MRI)、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも3カ月以内に脳室拡大・脳萎縮
が確認される。
この2つの要件が揃えば高次脳機能障害として認定されやすくなります。
しかし交通事故により頭部を強打し、後日高次脳機能障害と思われる認知障害(記憶・記銘力障害、
集中力障害、遂行機能障害、判断力低下、病識の欠落)や人格変化(感情易変、易怒性、意欲低下、
自発性低下、被害妄想、病的嫉妬、幼稚性、羞恥心の低下)が現れても、
①交通事故直後に意識障害がなく、
②事故直後の頭部画像上(CT、MRI)脳挫傷が認められず、
③事故から数ヶ月経過後の頭部画像上にて脳室拡大・脳萎縮が認められない場合は、頭部外傷に
よる高次脳機能障害の後遺障害等級認定は非常に困難となります。
どんな名医でも現在の医学では救えない命はたくさんあります。
被害者が大変苦しんでいるのに、交通事故に精通した専門家として何もできない事案はたくさん存在
するのです。
お金はいらないから交通事故前の状態に戻してほしいという被害者の声は数多くあります。
どんなにたくさんの賠償金を受け取っても、交通事故前の身体や状況はお金では買えません。
上記のことを考えると、交通事故の専門家がお手伝いできることはほんのごくわずかなことです。
しかも交通事故損害賠償の専門家が関与したにも関わらず、被害者の納得できる後遺障害等級が認定
されない事例や納得できる賠償金を得られない交通事故判例が数多く存在します。
一部の広告やホームページでは交通事故被害者のためにと綺麗な謳い文句繕った宣伝を見かけますが、
交通事故処理は綺麗事ではできません。
交通事故の形態は10件10色、1万件1万色であり、決して同じ形態の交通事故はありません。
同じ交通事故形態にならない要因として、事故状況はもちろんのこと、交通事故には様々な関係者が
存在し、相互に絡み合っているからです。
当事者としての被害者と加害者、その当事者に関係してくる被害者及び加害者の親族、医師、病院
関係者、警察、勤務先、後遺障害の認定機関(自賠責損害調査事務所)、保険会社、そして交通事故
当事者を支援する専門家(弁護士、行政書士等)、その他いろいろな人が絡み合い、様々な色
(形態)になります。
交通事故業務は上記の色(形態)を事案ごとに吟味を重ねて、方向性を決定していくものです。